熟練工の技巧の標準化へー暖冷工業グループが挑む、ものづくり企業の仕組み改革ー
このプロジェクトについて
販売管理システムの刷新をきっかけに始まった本プロジェクト。
検討を進める中で見えてきたのは、システムだけでは解決できない、熟練工のノウハウの属人化や、本社と工場の連携に関する課題でした。
カヤックボンドは、現場へのインタビューやワークショップを通じて、これまで表面化していなかった課題を可視化。
暖冷工業グループの皆様と共に、業務の標準化と、組織を横断した改善の仕組みづくりに取り組んでいます。
本記事では、プロジェクトが始まった背景から、現場で生まれた変化、これから目指す姿までを伺いました。
この記事で分かること
- システム刷新の相談が、組織全体の課題解決への取り組みに広がった背景
- 熟練工の経験やノウハウを、組織の仕組みに変えていく取り組み
- インタビューやワークショップを通じて生まれた、現場と組織の変化
暖冷工業グループについて
暖冷工業株式会社は、創業以来、オーダーメイドの空調機器を手掛けてきたものづくり企業です。
羽田空港や東京ドームなど、国内を代表する大型施設にも同社の空調機器が導入されています。
製造を担う水戸暖冷工業株式会社、保守・サービスを担う有限会社暖冷サービスと共に、半世紀以上に渡り、日本の空調環境を支え続けています。
- 会社名
- 暖冷工業株式会社(DANREY KOGYO CO.,LTD)
- 所在地
- 〒104-0043 東京都中央区湊3丁目3番2号 前田セントラルビル
- 代表者
- 代表取締役 淺野 力夫
- 設立
- 1964年(昭和39年)10月9日
- 事業内容
- 冷暖房空調設備機器、送風機、換気扇及び制御機器の設計、製造、販売
空調機器交換工事(空調機の現場組立等)、空調機器定期点検整備並びに保守管理 - 公式サイト
- 暖冷工業株式会社 公式サイト
今回お話を伺った皆様
本記事では、暖冷工業グループが抱えていた課題や、プロジェクトを通じて生まれた変化について、暖冷工業株式会社の淺野社長、プロジェクトの中核を担う内田様、工場と本社を繋ぐ近森様の三名にお話を伺いました。
それぞれの立場から見えていた課題や、インタビュー・ワークショップを経て感じた変化、今後目指していく姿についてお聞きしています。
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代表取締役社長
淺野力夫様
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空調営業一部係長
内田光俊様
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空調営業支援部技術課係長
近森優様
目次
既存のシステム改善から組織全体の課題解決へープロジェクト開始の背景ー
はじめに、プロジェクトの背景について教えてください。依頼する際は、どのような課題を相談しようとしていたのでしょうか。

内田係長
もともとは暖冷工業本社のシステム改善の相談から始まりました。ですがプロジェクトを進めていく中で、既存システムの改善だけでは解決できない、グループ全体の課題が見えてきたんです。
そこで販売管理だけでなく、製造を担う水戸暖冷工業株式会社の生産管理にも繋がるシステムにしたいという方向に変わっていきました。工場内では、それぞれが独自のExcelで管理していて、標準化されていなかったことも背景にあります。
そこでカヤックボンドに依頼をすることになったきっかけは何だったのでしょうか。

内田係長
まず、社長が既存システムに危機感を抱いていたことが一番のきっかけでしたね。ちょうど社長就任後で、変革に向けて前向きに進めていこうというタイミングでもありました。

淺野社長
私は長年プロパーで暖冷工業グループに従事し、一年前に社長に就任しましたが、今回のようなプロジェクトを外部に依頼するのは初めてのことです。
私自身、元々は経理だったため、これまでいくつもシステムを作ってきました。そのため様々なベンダーさんとのお付き合いもありますが、カヤックボンドさんは「依頼内容だけやる」という姿勢ではなく、色々なことを考えてくれている感覚があります。「問題のあるシステムの改良」というだけでなく、総合的に会社全体を良くしていけたらという意思表示を感じています。

内田係長
検討時は他の会社さんも候補に挙がっていましたが、カヤックボンドさんは既存システム改善から更に一歩踏み込んだ課題提起をしていただけました。
今回の場合は、例えば組織や体制面での課題が見えたタイミングで、社員へのインタビューが実施されることになりました。おそらく一般的なシステム会社さんであれば、我々の要件を聞いたら「それを作りましょう」に収まっていたのではないかと思います。
熟練工の長年の技巧を組織に標準化するためにー改めて据えられた課題とプロジェクトの目的ー
システム改善だけではなく、グループ全体の連携や体制の状況を把握する必要がある、という文脈から、社員インタビューを実施するというお話がありました。具体的に、どういった目的があったのでしょうか。

内田係長
まず、目下の課題として、製造の中枢を担う熟練のベテラン職人が定年を控える中、そのノウハウが組織に共有されていないという状況がありました。そこで今回のプロジェクトでは、事業を大きく支える熟練工ならではの技術や製造管理のノウハウを、個人の頭の中にある技巧や感覚ではなく、組織に標準化していくことにクローズアップしよう、という話になりました。

淺野社長
ひとつのグループとして、技術の継承や共有に向き合わなければならないという事業としての危機感がありました。その中でも、やはり熟練工の社員が数年後に定年が迫っているという時間的な制限は大きかったと思います。
熟練工のノウハウを標準化していく意思決定をした上で、ボトルネックとなる課題の核心はどういったものだったのでしょうか。

近森係長
僕はもともと水戸暖冷工業に5年間在籍し、現在は本社である暖冷工業株式会社に異動して2年程になります。そのため、どちらの立場からも現場を見てきました。
そもそも熟練工の担当者は、日々の膨大な業務を一人で抱えていらっしゃる部分が大きく、誰かに教える時間や余白が足りていない現状がありました。また、業務は教えるよりも自分でやった方が早い、というような考えも職人ならではの知識の深さやこだわりとして考えられるかもしれません。

内田係長
例えば、普段の担当業務である製造工程の管理をしつつ、間に合わないと判断した場合には、実際に自分が現場に入って一緒に作るんですよ。それだけでなく、自分だけ残って特殊なパーツを組み立てたり。もし教えてもらう立場についたとしても「いや、自分はそこまでできないな」と感じてしまうかもしれません。 何よりも、教える時間もありません。

近森係長
加えて、工場での管理ツールが各個人で統合されていないなどの課題もありました。各々で管理のためのExcelを作り、それらを共有する仕組みは曖昧で、この点が効率のよい円滑なコミュニケーションを妨げる要因に直結していたように思います。
現場の声を危機感で終わらせず、本質的な解決に取り組むーインタビューとワークショップの実施ー
これらの課題感を、単なるマンパワーの問題ではなく組織課題として捉えたのですね。
では次に、今回のプロジェクトで行われたプロセスや実施内容について教えてください。

内田係長
まず、一回目のインタビューは現状の管理体制の把握を目的として、工場で働く社員に向けて広く実施しました。次に、二回目のインタビューでは、熟練工の近辺で働く社員に、どのような作業や業務を行っているかの実態を探っていきました。
結論として、熟練工の技術やノウハウのほとんどが、実は彼の頭の中で完結していることが分かりました。もちろんExcelなどはありますが、一つひとつの工程をどのように組んでいるかの判断は、彼の長年の経験と感覚によるものだという現状がわかってきたのです。
また、社員インタビューを経て、営業チームでワークショップを実施しました。インタビューの示唆から、どのような問題が提起できるか話し合う場にしたんです。更に今後の予定として、工場と営業のメンバーが入り混じったチーム構成でのワークショップ実施も計画しています。
プロジェクトで実施されたプロセスを経て、どのようなことを感じましたか。

淺野社長
これまでも工場に足を運んできましたが、本質的な課題や本音を垣間見ることは余り多くありませんでした。更に、話をする機会も本当に限られているため、現場の端から端まで意見を直接聞けるかというと、なかなか難しいのが実状です。今回、外部から第三者視点で本音を引き出していただいたことで、「皆にそこまでやってもらってるのか」と感じ、ショックですらありました。
そういった意味でも、まだまだ粗くではあるものの、現場のことを知ることができたのかなと思っています。
また、はじめは正直なところワークショップと言われても何のためにどんなことをするのか、余りよく分かりませんでした。今は、若い世代がどんなことをやるのか、勉強するつもりでやってみる気持ちでいますね。

近森係長
これまで、工場の視点から見える課題と本社の視点から見える課題をお互いが共有したり、誰かに切り出す機会は、余り多くはありませんでした。また、営業チームが工場に対してどういった思いがあるのかなど、自分も正直なところ分かっていない部分もありました。
ワークショップなどのプロセスを通じて、それぞれの考えや色々な思いを共有できたのが、良かったなと思っています。
これまで、会議があったとしても解決策までまとまらず、結局何も変わらないことが少なくなかったんですよね。そのため、この機会にシステム導入だけでなく、タスクフォースという形で改革を起こすという具体的な前進が生まれたのが大きな収穫だと思っています。

内田係長
インタビューでは、私たちが分かり得ない課題の数々を知りました。もともと持っていた危機感も倍増し、何かしなくてはという気持ちが膨らみました。ですが、ワークショップを通じて話し合った際には、危機感によって不安感に駆られるだけではなく、自分たちにできることは何かを前向きな姿勢で考え、話し合うことができた点が、個人的には非常に良かったと思っています。
解決の道のりで確信した、対話の可能性とものづくりにかける現場の思い
プロジェクトは道半ばですが、現時点では、どういった変化や成果を感じていますか?

内田係長
今回、工場と本社で五人ずつメンバーを出し合い、プロジェクトチームを立ち上げました。一週間に一度の場を設け、工場で起きた困りごとは本社に、その逆も然りで、相談や話し合いを行っています。このチームでは小さな課題でも共有し、解決できそうな行動があれば、本社と工場間でどんどん連携していくようにしています。そのリーダーが、近森係長です。

近森係長
インタビューの報告を経て、危機感をより一層強く抱き、チームを立ち上げたという経緯があります。つい昨日も工場のある水戸を訪れ、色々な意見を本社に展開するための会議を実施しました。現在も色々と現場の聞き取りを行っている最中です。
プロジェクトを通じて、どのような気づきや発見があったでしょうか。

内田係長
工場の皆さんに共通しているのが、「嬉々として良いものを作りたい」ということです。現場の方と話をしていると、機器のことをこれほど大事に考えているのかという点を皆さん持っており、素晴らしいと思いました。自分の都合以上に、会社の事を考えてくれているんだなという。「常にいいものを作りたい。商品を大事にしたい」という想いが伝わってきましたね。

近森係長
やはり、ものづくりが好きな人が集まってるため、いいものを作ろうという意識が非常に強いと思います。時折、頑張りすぎてしまうほどにですね。お客さん第一という気持ちを、工場全体が持っていると感じています。
動き出した変革のこれからーそれぞれの目線から見えるプロジェクトの展望ー
最後に、それぞれのお立場からプロジェクト全体を通しての今後の展望をお聞かせください。

内田係長
私は、ここから5年間のスパンで考えています。現在50〜40代の社員が少なく、ベテランの役員の方々がいらっしゃるうちに、小さなことから少しずつ、どんどん変えていきたいですね。
また、工場の生産管理の面でも、熟練工の技術継承を含め、責任ある管理体制を展開していけるようにしたいです。プロジェクトメンバーのように兼任の体制ではなく、会社としてしっかり向き合えるような組織をきちんと作っていきたいなと考えています。

近森係長
まずは、属人化のリスクを解消することが一番ですね。そして、Excelの管理などをはじめ、その人しか分からない状況を解消していきたいです。もし「その人がいなかったらどうなる?」という課題を解決し、標準化していく仕組みづくりによって、グループの力をあわせてより良いものを作っていきたいなと思っています。

淺野社長
プロジェクトは道半ばで、今まさに手をつけたばかりの段階です。ただ、将来いつか解決しようと思ったとしても、行動に移すのが一番難しいことですよね。これから更に課題解決に向かっていく中で、暖冷工業グループの社員が、会社の成長を自分ごととして実感でき、未来を共に担いたいと思える会社でありたいと私は考えています。

内田係長
近い話ですが、採用の面も大切ですね。工場は地元に根付いてるものなので、そこで働いている人々が、子どもや親戚など、自分自身の家族に「うちの会社はいい会社だから入ってきなよ」と胸を張って話してもらえるような会社を作っていかなければと思いますね。

淺野社長
とにかく根本は、会社は人ですから。
Credit
カヤックボンド
- プロジェクト統括
- 尾下 弘敏
- UXリサーチャー
- 髙城 栄一朗
- UXライター
- 豊田 圭美